| クリスマスローズのお話し・花物語

花物語 ジングルベル
ある年の末、ジングルベルの音楽が町に鳴り響き、シクラメン・シンビジュームなど、
暮れの贈答用に市場から仕入れられてきた色とりどりの花たちに囲まれた
花屋のお店の片隅に、真っ白なクリスマスローズのお花が並んでいました。
楚々としてうつむきかげんに咲くクリスマスローズの花を見る客は少なく、買い物
客は歳末の混雑に紛れて、色あでやかで派手な花に目が移ってしまいます。
三日過ぎ、五日経ちクリスマスローズはそれでも一鉢ずつ売れていきました。
その花屋さんの店先に夕刻になると必ず立ち寄って、クリスマスローズを眺め
ている一人の小さな女の子を連れた女性がいました。
花を買うわけではなく他の派手な花には関心が無いように、真っ白なクリスマスローズの
花首に手を添え眺めて店員に「クリスマスローズの小首を傾けた白い花って子供の頃を
思い出させるのね」などと話し掛けるだけです。
そんな日が何日か続き、クリスマスローズはとうとう一鉢だけになってしまい、
その最後の一鉢を年老いた婦人が店員にプレゼント用にとラッピングを頼み
買っていってしまいました。
日が暮れる頃、いつものように子供を連れた女性はその花屋の店先に立ち、
最後に残った一鉢のクリスマスローズが売れてしまったことを知ります。
店員に「とうとうみんな売れてしまったのね」と話し掛け立去り、しばらくする
と先ほどの女の子を連れた女性が雑踏の中を花屋に駆け込んで着ました。
店員は何事かとビックリしたようですが、「最後のクリスマスローズをお母さ
んがプレゼントしてくれたの、私がいつもこの花屋さんでクリスマスローズを
見ていたので,、今日私の誕生日だからってプレゼントしてくれたの」。

春の公園、野山に色艶やかに花開く桜花、染井吉野の誘惑を皆さんはご存じと思います。
薄墨色に煙るように咲き誇り、ほんの数日で春の嵐にうち砕かれ潔く散ってしまう桜花の花びらに、悪 魔が贈る誘惑の視線を浴びたことが有るのではないでしょうか。
坂口安吾の作品に「桜の木の下には死体が埋もれている、桜の花はその死体の血を 吸って美しく一瞬の妖しの美しさを見せている」と云うのを聞いたことが有るかと
思います。
この桜の花の一瞬の美しさ、これを悪魔の仕業と考えたことは有りませんか?。
桜前線の北上とともに桜の花の下、日本各地で繰り広げられる馬鹿騒ぎ、喧噪。いつもは礼儀正しく、凛々しく仕事を進めている、それなりに評価されている人々が、人が変わったように酒を飲み、狂うように叫び騒ぎ立てているのを見たことが有るでし
ょう。
花にはどこか人の心をもてあそび、狂わせ、虜にしてしまう、
妖しの魅力 が有るような気がしてなりません。
私たちが愛してやまないクリスマスローズも悪魔に魅せられた花の一つではないでしょうか?。
イエスキリストが生まれた二千年の昔、貧しい少女がイエスキリストの誕生を祝い花束を捧げたと云われるような清らかな物語とは違う何かを、一輪一輪の花に指を添え愛でるときにそれを感じ
ます。
つい二昔前までは、誰にも振り向かれず、そして人知れず庭の片隅に咲いていた地味な花色をした花クリスマスローズが、この十年の間 に多くの人の心を虜にしてやまなくなりました。
その妖しの魅力はこのクリスマスローズ一輪の花のどこにある のでしょうか。
小首を傾げ清楚に咲き、なにも欲しがりもせず、冬の寒風に身をゆだねて楚々として灰色の庭に咲く、このクリスマスローズの花のどこにこれほど人を引きつける魅力があるのでしょうか。
もう十数年も前のことですが、ある冊子の記事に花のコレクションで身を持ち崩す男のお話が載っていたのを 思いだします。
幾分か花好きの人をちゃかして書かれていますが、親類・近所のつきあいの香典を出し惜しみ、また自分の幼い赤ん坊のミルク代までも妻から取り上げて、日々の生活費までも花のコレ
クションにつぎ込んで身を滅ぼしてしまうというお話です。
花屋の店先にダブルのハイブリットが数鉢、花首を傾けてあなたにほほえみかけて きたとき、
あなたはその悪魔の使わした一株のクリスマスローズが投げかける花、その悪魔がさしのべたほほえみの誘惑に勝てるでしょうか?。
普段はパ ンジーの一輪の花にも、一枝の薔薇さえにも心を移さず振り向きもせず通りすげたはずなのに、
この妖艶ともいえ るようなクリスマスローズダブルの花が誘い出す悪魔のささやき。
その誘惑とも言えるようなささやきに心をとらわれてしまうようなことはないでしょうか。
ゆめゆめ、悪魔が使わした花、クリスマスローズの花に魅入られないようにとの祈りを込めて。

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